第32回大阪府理学療法学術大会

The 32nd Congress of Osaka Physical Therapy

シンポジウム1(生活期)▷ ページを更新する

生活期に求められる視点

山崎 貴峰
株式会社ワイズトライン 代表取締役 
やわらリハビリ訪問看護ステーション 所長
やわらキッズ(重症心身障がい児デイサービス) 所長
 現行制度では急性期、回復期と大きな機能回復が見込まれる期間は、制度上も頻回なリハビリテーションが認められている。厚生労働省が出しているデータでは、回復期リハビリテーション病棟での平均入院期間68.7日、リハビリテーション時間は1日平均124分となっている。しかし、生活期の介護保険下で行う訪問によるリハビリテーションは、回復期とくらべ約1/7の週120分までと時間的制約を受ける。また経済的な理由や他のサービス併用など様々な影響もあり、リハビリ時間は大きく減っていく事となる。デイケアやデイサービスなども利用していく事は多いが、入院中と同じようなマンツーマンのリハビリテーションを受ける機会は限られている。
 シンポジウムのテーマでもある「歩行」を練習しなければならない理由は、人により様々である。生活を自立させるために必要な利用者もいれば、旅行などの人生を豊かにするために必要とする利用者もいる。生活の中で歩くということは、転倒などの危険も伴うため、歩行能力だけでなく転倒後の対応や歩行に伴い増える介護負担も考慮しつつ進めていく必要がある。生活期では、利用者の事だけでなく家族間の関係性や関わっている多くの事業所の事も考え、ジェネラリスト的な幅広い視点をもったアプローチをしていかなければならない。
 生活期に移行した利用者は、今まで毎日行われていたリハビリテーションからの落差や生活環境の変化、それに伴う不安、家族の介護負担などに直面することが多い。一定の区切りとして「退院」という目標が達成できた後に来る新たな壁にどう対処し、そして新たな目標をどう設定していくのかという問題がでてくる。また難病などの進行性の病気を患っている利用者は、向上させていくための目標とは限らず、病状の進行と家庭や社会での役割を考慮した目標設定をしていかなければならない。
 本シンポジウムでは、そういった様々な問題が出てくる生活期のリハビリテーションについて、実際の症例なども提示し、病院では再現しにくい環境下で求められる「歩行」について、生活期ならではの難しさや面白さを伝えていきたい。
略歴
1999年3月  吉備国際大学 保健科学部 理学療法学科 卒業
1999年4月  京都府立医科大学付属病院 入職
2004年4月  有限会社やわら やわら訪問看護ステーション 入職
2014年7月  株式会社ワイズトライン 取締役就任
2018年12月 株式会社ワイズトライン 代表取締役 就任
やわらリハビリ訪問看護ステーション 所長
やわらキッズ(重症心身障がい児デイサービス) 所長
資格
3学会合同呼吸療法認定士
介護支援専門員
社会的活動
公益社団法人 大阪府理学療法士会 北支部代議員

急性期~回復期~生活期の一連の流れの中での予後予測とゴール設定

藤堂 恵美子
医療法人マックシール巽病院リハビリテーションセンター マネージャ―
 現在、年間100件以上の新規利用者の自宅や入院先に伺い、その場で身体機能や日常生活動作を評価して予後を予測する仕事に携わっており、病院の担当理学療法士から申し送りを受けることが多い。経過が改善・維持・低下のどの傾向にあるかは有用な情報であり、生活期での予後を予測する手掛かりとなる。そのため、病院の担当理学療法士に「現在の歩行は何年程度維持できそうでしょうか」「病院とは異なる環境になった場合に予測されるリスクはありますか」「送迎車の昇降時、浴槽の出入り時、注意点はありますか」「入院中より個別リハビリテーションの回数および時間が減りますが、準備していることはありますか」「優先的に行う必要があるリハビリテーションを教えてください」等の質問を行っている。これらの質問に対し活発な意見交換が行える理学療法士は非常に有り難く、十分な準備を行った上で引き継ぐことが可能となる。
 しかし、退院後の生活混乱期において日常生活動作は大きく変化する可能性があり、入院中に自立していた歩行が退院後も自立できるとは限らない。たとえば、歩行時に見守りが欠かせない状態であったにも関わらず、自宅での常時の見守りが困難であった結果、残念ながら退院から間もない時期に転倒が発生してしまうことがある。その危険性がある場合、移動の自立が急務の課題となり、福祉用具等の環境を見直す事態が起きている。環境変化を最小限にして転倒リスクを減らし、家族の介護負担も考慮した上で早期に安全な移動手段を確立させる必要がある。また、急性期からの経過を把握し、健康寿命の延伸や看取りも視野に入れた長期間の予後を予測することも必要である。そして、具体的な目標を設定し、活動・参加の維持向上を図り、適切な期間での修了も念頭にアプローチを行うことが生活期の理学療法士には求められている。
 現在のシステムでは、退院後の生活がどうなっているか、福祉用具は使用できているか、転倒していないか等、病院の担当理学療法士をフィードバックする機会は少ない。たとえフィードバックが得られたとしても、日常業務に埋没し意識が薄れてしまう可能性も考えられる。退院前の意見交換が経験となり、今後のアプローチに活きることを願っているが、病院の教育システム構築が重要と感じることも多い。このようなケースに心当たりのある方、生活期にどのように繋ぐべきか思い悩んでいる方、そして生活期でのアプローチに悩んでいる方は、ぜひ生活期セッションを聴講してほしい。自身の経験を踏まえ、当法人にて構築した連携システムや職員教育についても提示し、新人~中堅~管理職の全ての理学療法士の明日からの臨床に役立つ内容を準備している。
略歴
2005年 大阪府立大学医療技術短期大学部理学療法学科 卒業
2005年 医療法人マックシール巽病院リハビリテーションセンター 入職
2013年 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科博士前期課程(保健学)修了
2018年 医療法人マックシール巽病院リハビリテーションセンター マネージャ―
資格
認定理学療法士(地域理学療法)
認定訪問療法士
地域ケア会議推進リーダー
介護予防推進リーダー
社会的活動
池田市自立支援型ケア会議 助言者
大阪府立大学 非常勤講師
日本訪問リハビリテーション協会認定審査会 委員
著書
楽に動ける福祉用具の使い方 第2版 多職種協働による環境整備:日本看護協会出版会(2019)
認知症ケアのための家族支援 臨床心理士の役割と多職種連携:クリエイツかもがわ(2017)

生活期から歩行を考える

木下 篤
社会医療法人さくら会 さくら会病院 リハビリテーション科  副主任
 地域包括ケアシステムの構築が言われて久しいが、その中で地域包括ケア病棟は医療と介護、在宅と入院のハブとしての役割を担っている。当院での当該病棟入院患者は運動器疾患、脳血管障害、内科疾患による廃用症候群、神経難病などと多岐に渡る。加えて既往や合併症などから重複障害を有してることが多い。そういう中で、高齢患者では歩行の獲得が自宅退院か否かを決定する一因となることをしばしば経験する。そこでは対象者の歩行獲得または歩行安全性の評価が理学療法士に求められる。
 生活期のリハビリテーションでは対象者が自宅生活を営む上で、独力で歩くことが可能なのか?従来の活動量は?福祉用具の必要性は?住宅の環境はどうなっているのか?介助者の有無?など多くの情報をスムースに収集し歩行の予後を予測し目標設定を行いアプローチしていく必要がある。しかしそれらを検討するうえで、例えば1人暮らしで団地の2階に住む要支援の90歳の女性が、転倒し橈骨遠位端と大腿骨頚部を骨折し手術され、術後心不全となった後に再度歩行が可能かといったようなナラティブ情報を反映した研究は少ない。そこで私が参考にしている1つが厚労省の高齢者リハビリテーション研究会の示す3つのモデルである。これは様々な高齢者の状態を、急激に機能低下を生じる脳卒中モデルと徐々に機能低下する廃用症候群モデル、そのどちらにも属さない認知症高齢者モデルの3つに分類したものである。生活期の対象者の多くは緩やかに生活機能が低下する。そういったなかで眼前の対象者が今どのようなフェーズにあるのかしっかり見極める必要がある。もう1つはジェネラリストとしての視点である。本学術大会は「ジェネラリストとしての素地の涵養」を命題としている。先に挙げた女性対象者に対しては、ざっと述べても大腿骨頚部骨折、橈骨遠位端骨折、疼痛、心不全、サルコペニア、介護保険、住宅改修など広く包括的な知識が必要である。この知識に対象者のナラティブ情報を組み合わせて目標やアプローチを決定していく。このようなオリジナルな対象者に対して理学療法を実施できることは実はスペシャリストでもある。そのためには何十例と真摯な経験を重ねるに他はない。
 生活とは文字通り生存して活動すること、世の中で暮らしてゆくことである。まさにリハビリテーション医療の核心であり、生活期の理学療法はその一翼を担う。本シンポジウムでは私自身の経験や症例を通して生活期というオリジナルな環境での理学療法について議論を行いたい。 
略歴
2010年 関西医科専門学校 理学療法学科卒業
2010年 医療法人さくら会 大阪南脳神経外科病院
現:社会医療法人さくら会 さくら会病院入職
2018年 大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科 博士前期課程修了
資格
認定理学療法士(脳卒中)
認定理学療法士(臨床教育)
社会的活動
大阪狭山市理学療法士会 理事
地域ケア会議推進リーダー(大阪狭山市助言者)
大阪府理学療法士会生涯学習センター 学術誌編集部部員
Facebook
LINE
Twitter

事務局

一般社団法人
大阪府理学療法士会
生涯学習センター
〒540-0028
大阪市中央区常盤町1-4-12
常磐セントラルビル301号
TEL:06-6942-7233
FAX:06-6942-7211
学会事務局
gakkai@pt-osk.or.jp
研修集会事務局
2th-kenshu@pt-osk.or.jp
arrow_upward

トップ