第32回大阪府理学療法学術大会

The 32nd Congress of Osaka Physical Therapy

シンポジウム1(回復期)▷ ページを更新する

歩行へのアプローチと目標設定(回復期)

大泉 貴志
牧リハビリテーション病院 リハビリテーション科 科長
 回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)において、2016年よりFIM利得によるアウトカム評価が導入され、リハビリテーションの成果が問われる時代となってきている。回リハ病棟に従事する理学療法士は、入院時から患者の退院後の生活を意識し、必要なADLを早期に獲得し、退院後のフォローアップを含めた連続性のあるリハビリテーションを提供することで在院日数を短縮するといったスピードアップが求められている。
 そのような中で、歩行へのアプローチを行う上では、回復過程に合わせて歩行の「質」と「量」へのアプローチの比重を変えていくことが必要であり、特に歩行量をいかにして確保するかが重要であると考える。Hebbの法則では、リハビリテーション治療における効果は訓練の量が重要であるとともにその課題に依存する。歩行機能を獲得するためには、歩行運動を数多く行うことが重要であるといわれている。特定の課題を数多く行うことにより、特定の回路のconnectivityが強化される。つまり、よく使われるニューロンの回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げるということになる。脳卒中患者は、発症早期は代償動作を用いた過剰努力での歩行となるため、そのような時期においては機能回復に合わせてハンドリングスキルや装具療法を用いて効率的な動作の学習を促す必要がある。歩行時の過剰努力が軽減し、効率的な動作が可能となってきた時期から病棟での積極的な歩行練習や自主トレーニングを導入し、最大限の歩行量を確保していくことが重要である。
 積極的なリハビリテーションを行うためには、患者と意思決定の共有(Shared Decision Making:SDM)をすることが不可欠であり、具体的な目標を設定することで患者のモチベーションを高めることが重要である。SDMはリハビリテーション医療における治療構造への患者の積極的参加を導き、そのプロセスによる目標設定が患者のモチベーションを高め、生活の自立を促すとされている。
 本シンポジウムでは、歩行の「質」と「量」、特に歩行量について考察するとともに、目標設定については患者の退院後の生活とその後の人生を考慮した設定の仕方について議論したいと思う。
略歴
2007年3月  大阪医療福祉専門学校 卒業
2007年4月  牧リハビリテーション病院 リハビリテーション科 入職
2012年6月  小山病院リハビリテーション科へ異動
2018年12月 牧リハビリテーション病院 リハビリテーション科へ異動
2020年4月  牧リハビリテーション病院リハビリテーション部理学療法科 科長
資格
3学会合同認定呼吸療法士
社会的活動
門真市理学療法士会 理事

歩行へのアプローチと目標設定(回復期)

松村 彩子
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO) 星ヶ丘医療センター
リハビリテーション部 主任
 歩行とは、様々な中枢神経のネットワークにより成り立っている。高草木は、歩行運動実行系と姿勢制御系(筋緊張調節系)の2つの経路により歩行は成立するとしている。前者は、皮質から中脳歩行誘発野を経由して脳幹網様体へ歩行の指令を伝え、後者は皮質から脳幹網様体へ姿勢プログラムを伝える。その後、2つの経路は脊髄で統合され歩行リズムとパターンが生成されて歩行運動となる。したがって、歩行にはCPGを中心とした両下肢の交互性の運動だけでなく、姿勢を保ち、重心の移動に対して姿勢を制御できる動的バランスが必要と考える。片麻痺者の多くは上下肢の麻痺だけでなく、体幹の非対称性を呈している。歩行獲得のためには、体幹の姿勢筋緊張を保ちながら、麻痺側下肢の運動パターンを誘発する必要があると考える。下肢の運動パターンの促通には、徒手的な介入やトレッドミルや歩行補助ロボットを用いた方法、電気刺激や下肢装具を使用する方法などがある。どの方法であっても、体幹を中心とした姿勢制御を行いつつ、CPGを中心とした下肢の運動パターンを促すことが、効率の良い歩行の獲得につながると考える。
 では、病状が安定した時期である回復期において、歩行の再獲得はどのように進められるべきだろうか。歩行練習の質と量に関しては様々な議論があるが、脳の回復過程から検討してみたい。運動麻痺回復のステージ理論(原,2012)によると、回復期にあたる発症3ヶ月ごろは皮質間ネットワークの興奮性が最大となり、その後はシナプス伝導効率の向上が高まる時期と報告している。つまり、回復期は皮質間に新しい神経回路網を構築し、機能効率を最大限に促すことができる時期と言え、その後の維持期は、回復期で構築されたネットワークをより強化し、確固たるものにする時期といえる。仮に、歩容を無視して非麻痺側優位の歩行練習を反復すると、代償的な運動パターンを助長するだけでなく、麻痺側上下肢の非機能性を強める可能性があり、維持期にはそれらがさらに強化される可能性がある。また、脳卒中片麻痺者の多くは小脳システムには問題がないため、度重なる代償的な運動パターンは筋紡錘からの情報として小脳にフィードバックされ、非効率的な運動感覚経験という学習がなされることが懸念される。したがって、まずは良質な運動パターンと身体バランスの獲得を促し、安定した歩行と歩容の獲得を図り、その後、退院時期から逆算して歩行距離の延長や耐久性向上を促す必要が回復期にはあると考える。シンポジウムでは、上記の内容を、実際の症例を加えながら提示したいと思う。
略歴
2003年 鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 卒業
2003年 星ヶ丘厚生年金病院(現:JCHO星ヶ丘医療センター)入職
2012年 JCHO星ヶ丘医療センター リハビリテーション部 主任
資格
専門理学療法士(神経)
執筆
脳卒中-わかりやすい病態から治療まで 改定第2版- 「リハビリテーション開始の時期は?」:最新医学社,2016

歩行へのアプローチと目標設定

河西 由喜
医療法人協和会 第二協立病院(協和会病院と兼務) 理学療法科主任
 歩行は、三次元の空間における身体の移動の一つであり、人間にとって最も重要な移動手段である1)と言われている。さらに、私が今まで担当する機会を得た患者や利用者の希望の多くが「歩けるようになりたい」であった。回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)で働く理学療法士は、歩行獲得に関して専門的知識を持った上で、院内での生活はもとより退院後の環境へ適応できる能力の獲得を支援し、環境調整の提案ができる能力を有する必要がある。本シンポジウムでは、整形外科疾患患者に対しどのように関わるべきかについて私見を述べる。
 平成30年度の報告では、回復期リハ病棟において整形外科疾患の発症から入棟までの平均日数は20.3日で、14日以下が27.7%を占めた。さらに、回復期リハ病棟での整形外科疾患の入院期間は、平均54.7日といずれも短縮傾向であった2)。これは、疾患の状態が安定しているとは限らない時期から回復期リハ病棟での理学療法が始まり、比較的早期に退院までの支援をする必要があることを示す。特に入棟早期は、発症日からの日数を考慮した疾患部位に対する理学療法の実施やリスク管理が必要である。
 また、疾患部位の機能改善を図る治療介入に加えて、それ以外の部位である他関節への介入も必要である場合が多い。これは、回復期リハ病棟での入棟患者の平均年齢が79.3歳であり、加齢による姿勢の変化やこれまでの病歴に起因する変形や筋力低下、生活習慣による影響など様々な要因によるものである。その背景を理解すると共に、健常歩行のメカニズムを理解することで、必ずしも健常歩行を目指すのではなく、それぞれの患者にとって目指すべき姿勢や歩容を検討する必要がある。以上を考慮した状態で、適切な歩行量や歩行時の支持物の設定をすることが望ましい。さらに歩行観察において、逸脱運動が機能不足あるいは回避動作によるものか、またその逸脱運動が今後二次的障害を引き起こす可能性のあるものかを考慮した上で耐久性を評価し、量の設定をしている。
 個々の患者に対して、疾患の状態や身体の歴史も考慮した上で、その時期ごとに適切な理学療法を提供し、生活期に繋げることのできる理学療法士を目指している。

【参考・引用文献】
1)Jacquelin Perryほか(著),武田功,弓岡光徳ほか(訳):ペリー歩行分析原著第2版正常歩行と異常歩行.医歯薬出版株式会社,2012.
2)一般社団法人回復期リハビリテーション病棟協会:平成30年度回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書【修正版】.2019.
略歴
2004年  大阪府立看護大学医療技術短期大学部理学療法学科 卒業
2004年  医療法人協和会 協和会病院 入職
2020年  医療法人協和会 第二協立病院 兼務
資格
認定理学療法士(運動器)
認定理学療法士(脳卒中)
地域ケア会議推進リーダー
介護支援専門員
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