第32回大阪府理学療法学術大会

The 32nd Congress of Osaka Physical Therapy

シンポジウム1(急性期)▷ ページを更新する

下肢運動器疾患における歩行アプローチ

加藤 良一
大阪市立大学医学部附属病院 リハビリテーション科
 理学療法士にとって歩行へのアプローチは1丁目1番地と言っても過言ではない。しかし現状はどうだろうか。クリニカルパスのもと、漫然と隣について歩いている「お散歩化」した歩行訓練、手を変え品を変え特殊テクニックを試す「自己満足的」な治療はないとは残念ながら言い切れないだろう。
 本来は急性期の特徴と役割を認識したうえで、戦略的に目標設定を掲げて介入すべきである。そして、この過程はマネジメントに通ずるものがある。PDCA、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルを回し、継続的に業務を改善する方法論である。今回は、3つのマネジメントの観点から急性期の下肢運動器疾患における歩行アプローチを考えてみたい。
①まずは『現状把握』から出発する。
・歩行はポイントを絞って観察を行う。
・正常と比較して動きが過剰あるいは不足している点をみる。
・初期接地のロッカー機能、荷重応答期の衝撃吸収能、立脚後期の重心前方移動を捉える。
・動作からメカニカルストレスを推察する。
・組織の炎症の程度や修復過程を把握する。
②次にPDCAで最も重要である『仮説と検証』を繰り返す。
・機能障害(原因)と異常歩行(結果)の因果関係を明らかにする作業を行う。
・MMTやROMなど各種検査との整合性や立位姿勢、片足立ち、ランジ動作など他動作から仮説を裏付ける。
・急性期は疼痛回避のための異常歩行が多く、現象が結果か原因かを見極める。
・物的および徒手的介助によって歩容や症状の変化を確認し、仮説を検証する。
③評価は曖昧にせず、定量的に行い、『数値化』する。
・歩行の実用性判断として、安定性、速度性、耐久性の見える化をする。
・安定性は時間的因子の立脚期時間や空間的因子のステップ長の標準偏差や変動係数を参考にする。
・速度性は10m歩行スピードだけでなく、速度をアップダウンした時の変化をみる。
・耐久性は6分間歩行テストやPCI((歩行後心拍数-安静時心拍数)/歩行速度)も有用である。
・加速度計を用いた動揺性やリズムの定量的評価も簡便に実施できるようになってきている。
・ロボットを用いて左右対称性の定量的評価および改善を目的とした歩行訓練も可能となってきている。
 他にも急性期では、各段階に応じた患者教育と術後歩行量を確保することで運動機能の向上に努める視点が必要である。早期歩行獲得に必要な運動機能の関連因子の検討だけでなく、現在はディープラーニングを用いて予後を予測する試みを始めている。
 これから発達する技術に利用される側、利用していく側の二極化が進むかもしれない。戦略的思考と探求心を持ち続け、自分自身をマネジメントしていくことが求められるのではないだろうか。
略歴
2002年 京都大学医療技術短期大学部理学療法学科 卒業
2002年 大阪府済生会中津病院 勤務
2005年 大阪市立大学医学部附属病院 リハビリテーション科 入職
2009年 大阪市立大学大学院修士課程(医科学) 修了
資格
専門理学療法士(運動器)
心臓リハビリテーション指導士
3学会合同呼吸療法認定士
社会的活動
公益社団法人 大阪府理学療法士会事務局 担当理事
執筆
筋骨格系理学療法を見直す:文光堂(2011)

歩行へのアプローチと目標設定~急性期セッション~ 脳卒中

太田 幸子
国立循環器病研究センター
 脳卒中治療ガイドライン2015において「不動・廃用症候群を予防し、早期の日常生活動作(ADL)向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもとにできるだけ発症後早期から直接的なリハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)。その内容には、早期座位・立位、装具を用いた早期歩行訓練、摂食・嚥下訓練、セルフケア訓練などが含まれる。」と明記されており、発症後できるだけ早期より歩行練習を行うことが勧められている。
 発症直後の脳卒中者は自身の運動イメージが障害を受ける前のままであり、実際の障害像を認識、受容しているとはいえない。急性期の理学療法においては、麻痺や感覚障害の評価に加え、高次脳機能障害の有無およびその程度を詳細に評価しておく必要がある。学習性不使用(learned non-use)を防ぐためにも、早期から麻痺側上下肢の使用を促さなければならない。そのためには、個々の症例の機能評価を的確に把握した上での、早期からの積極的な歩行が勧められる。歩行練習を実施するには、下肢機能の障害の程度に応じた歩行様式や長下肢装具を含めた歩行補助具の選定も重要となる。重度片麻痺例に対しても、麻痺側下肢に荷重させることで筋活動が生じる場合があることより、歩行を積極的に進めることで下肢機能の回復が期待できる。
 ただし、急性期脳卒中者の歩行練習に際しては十分なリスク管理が求められる。再発、病状の悪化を未然に防ぐためにも、脳卒中の病態の理解、バイタルサイン(心拍数・リズム・血圧・酸素飽和度など)の把握、神経徴候の観察は必須になる。また、急性期には持続点滴がある場合も多く、事故抜去のないようにも注意が必要である。
 急性期病院の入院期間は年々短縮されており、中等度から重度片麻痺例は回復期リハビリテーション病院を経由することが大半である。そこで目標設定をどうたてるかであるが、重度片麻痺例は活動制限(activity limitation)が多く、歩行動作においても全ての歩行周期に問題点がありどこからアプローチしようかと悩むことがあるかもしれない。焦点を絞って短期目標を設定し、回復期リハビリテーションを見越した最終目標の達成に向かえばよいと考える。
 近年では、脳卒中治療の進歩(急性期再灌流療法)により、運動麻痺や感覚障害を認めないか、またはあっても軽度の症例が増えている。歩行動作自体には問題がない場合があるが、“歩行”は再発予防の観点から重要な活動であり、歩行を促すことが大事である。
略歴
2001年 大阪府立看護大学医療技術短期大学部 卒業
2001年 国立循環器病研究センター 入職
2016年 大阪府立大学 履修証明プログラム「地域リハビリテーション学コース」修了
資格
専門理学療法士(神経系)
社会的活動
公益社団法人 大阪府理学療法士会 組織部部長
執筆
急性期脳梗塞 リスク管理と病態把握:理学療法ジャーナル54巻2号(2020年2月)

内部障害患者の歩行へのアプローチと目標設定

松木 良介
関西電力病院 リハビリテーション科
 内部障害分野における理学療法の臨床場面において、歩行は運動耐容能や身体機能の評価指標であり、最も身近な運動負荷・トレーニングの手段です。本発表では、呼吸器・循環器疾患患者に対する理学療法に焦点を当てて、歩行に対する解釈やアプローチ・目標設定について考えていきたいと思います。
 慢性閉塞性肺疾患(以下;COPD)や心不全患者では、呼吸・循環機能の低下とそれに伴う呼吸困難、骨格筋の機能低下などによって、日常生活での歩行量や快適歩行速度が低下し、ADL・QOLの低下につながることが知られています。
 歩行障害の特徴として、COPD患者では歩幅の減少とばらつきが生じるとされ、心不全患者でも歩幅の低下によるShort-stepping gaitを呈するとされています。その結果、COPD・心不全患者ともに歩行速度は低下します。歩行速度の低下は、入院率や予後の予測因子として重要視されており、COPD・心不全患者を対象にした報告ではおおよそ0.8-1.0 m/secがCut off値として報告されています。さらに近年は、COPD・心不全患者のサルコペニア・フレイルの合併が臨床的に問題視されており、歩行速度を評価して臨床的アウトカムとして捉えることの重要性は増しています。歩行距離も呼吸器・循環器疾患患者の歩行を考える上で非常に重要です。歩行距離は運動耐容能の重要な要素となり、評価方法として6分間歩行試験、漸増シャトルウォーキングテストが有用とされています。COPD患者における6分間歩行距離(以下;6MD)の平均値は380 mとされ、200 mを下回る場合は入院や死亡率を増加させます。心不全患者では、6MD:240 m未満が予後不良因子とされています。このように具体的な数値を踏まえておくことは、目の前にいる患者さんがなにを目指して、いまはどのような状況なのかを把握する上でも非常に有用な情報となります。
 6MDや歩行速度を治療効果のアウトカムとする場合、臨床的意義のある最小差(以下;MCID)を意識することが重要です。6MDに関するMCIDの場合は、COPD患者では54 m、心不全患者では約32 mとされています。MCIDを意識して目標設定することで、現在提供している治療が有効かどうかを見極めることができます。
 このように、本発表では内部障害疾患の歩行距離や歩行速度に焦点をあてて、歩行距離・速度が低下するメカニズムを文献的な考察を交えながら整理するとともに、評価指標・アウトカムとしての解釈・目標の設定については具体的に臨床に還元できるような形で考えていきたいと思います。
略歴
2008年 広島県立保健福祉大学 保健福祉学部 理学療法科 卒業
2008年 広島大学病院 リハビリテーション科 入職
2013年 広島大学大学院保健学研究科 修士課程 修了
2013年 関西電力病院 リハビリテーション科 入職
資格
認定理学療法士(循環器)
心臓リハビリテーション指導士
3学会合同呼吸認定療法士
糖尿病療養指導士
執筆
患者できましたシート:糖尿病ケア誌第17巻3号,特集4(2019)
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